39話 サルにもできる「四季報独自予想」
『37話 「週刊文春」に噛み付いた!』から続く。
東洋経済新報社(代表取締役・柴生田晴四・注*)の看板季刊雑誌「会社四季報」編集部が好んで使うのが「独自予想」という語句だ。
じゃあ、初めに「独自」の定義を少し調べてみよう。国語辞典――例えば三省堂の「新明解国語辞典第五版」は、「独自」を「そのものを特徴づける個性的な発想や、他では感じることの出来ない持ち味が、そこに十分に現れている様子」と定義している。だから、四季報が「独自予想」という表現を使うからには、他とは違った個性的な発想や持ち味がその予想に出ていなければならない。だから問題は、四季報は独自の予想をしているのか、そして四季報自称の「独自予想」はいかに算出されるか、だ。
上記の定義を念頭においてテキストとして使いたいのは、四季報のベテラン記者・筒井幹雄氏が書いた記事「古河電気工業の今期は円高で減額、『文春さん、会社四季報はこのように予想しております』」だ。この筒井記者による記事は、週刊文春(08年11月20日号)による批判記事「『会社四季報』が強気で推す16社は本当に買いか!?」に対する反論だ。
筒井記者は自分が担当した「古河電気工業」に絞って反論していたが、これはどうみても開き直りにしか見えない。まず、筒井記者は、四季報の予想(筒井記者の予想)は「ハズレ」であると認める一方で、なぜ古河電工の四季報秋号予想になったのか、を説明している。そしてその説明に従うと、当然ながら秋号予想になった、と言うのだ。
その根拠として、08年4−6期はアルミ厚板の売上が強かったことや、会社側の業績予測の根拠となった雄定為替レート(1ドル=100円)が、6月末時点のレート(106円)よりも円高に設定されていたこと、などをあげる。こうした根拠を元にすれば、業績が上振れする四季報の予想は妥当だったというのだ。
これには笑ってしまった。
だって、コレは単に業績予想の失敗理由を並べているだけではないか。要するに、予想が失敗した理由は、根拠とした材料が間違っていたと言っているに過ぎない。しかも、四季報予測数字の算定根拠は会社が独自に算定した数字を根拠にしていると、うっかりバラしてしまった。「独自予想」というのなら、「為替予想」を含む予想も行なわない限り正解にはたどりつけない。私は、自著「裏読み『会社四季報』」(角川oneテーマ21)で、次のように述べた。
「考えてみれば、為替や原油価格や国際環境を判断材料に入れない限り、
会社の正確な業績予想など不可能なのだ」(169頁)
筒井記者の説明は、まるで遅刻をしたガキが先生に叱られて、うだうだ言い逃れを並べているみたいで滑稽ではないか。
さらに私は「裏読み『会社四季報』」で、四季報がどんな風に「独自」な算出をしているのか、を推理してみた。その解答の一つとして「会社が立てた予想そのものを基準にして、取材によりそれよりも業績が上回りそうだと感じたら、100億円の経常利益なら10%増やして、110%億円という予想数値にするわけだ」(169頁参照)と説明したが、まさに正解であった。会社四季報の売り物「独自予想」なんて、取材対象会社が行なった予想という「人のふんどし」で相撲をとるやり方に過ぎないと言うことだ。
私は「人のふんどしで相撲をとる」などという表現は全く使いたくはないけれど、筒井記者が次のように文春を揶揄しているので、仕方なくあえて使ってみた。
「人のふんどしで相撲を取るのがならいとはいえ、
他社の出版物を批判する以上、もう少しマジメにやるのが礼儀だろう」
「人のふんどしで相撲を取る」のが習いと言いつつ、「独自予想」とはよくぞ言えたもので、片腹痛い。ちょっと考えればわかりそうなのに、なんと傲慢な態度だろうか。東洋経済新報社は、日常的に「週刊ダイヤモンド」の企画内容の露骨なパクリをやっていると業界内の笑いものになっていることを知らないのか。加えて、「独自予想」がはずれっぱなしで、読者への謝罪も一切なく、誤植で大迷惑をかけつつも改善のきざしなしで居直るばかりの会社でもある。これでは、そもそも東洋経済新報社には、他社の出版物を批判する資格などあろうはずもないではないか。
筒井幹雄記者さん、ふんどしぐらい自前にして下さいね。
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